第42回 記事「育ち合う保育現場」―新人を支える園の風土と愛着形成の実践―
環境と対話で育む、子供の安心と自己表現

保育士試験で資格を取得する保育士が増えて、保育実習を経験せずに現場に立つ新人職員が増えてきました。また、保育士資格を持つ者以外でも保育補助に携わる機会が増えていて、現場で戸惑う新人も少なくありません。実習経験があっても、配慮が必要な子供との関わりでは、特に丁寧な配慮が求められる初期の支援に戸惑う姿も見られます。
ある新人職員は、入園当初にドアを激しく叩いたり、髪を引っ張ったりする子供に驚き、対応に困っていました。しかし、先輩保育士の姿を見て学ぶ中で、子供の行動には必ず背景があることを理解するようになります。子供をありのまま受け止めて、否定せずに「どうしてこうしたのかな?」と問いかけることで、子供は少しずつ自分の気持ちを言葉にし始め、信頼関係が築かれていきました。
この園では「選択理論心理学」に学びつつ、子供の行動を「愛・所属、生存、自由、力、楽しみ」という5つの基本的欲求から読み解く視点を大切にしています。これらの欲求が満たされないと、子供は破壊的な行動でそれを満たそうとすることがあります。新人職員は、「お腹が空いている」「もっと抱っこしてほしい」「弟妹ができて我慢が続いている」など、具体的なニーズに寄り添うことで、子供が徐々に落ち着いていく様子を、先輩保育士を通して学んでいきます。
室内環境としては、保育士同士で全体が見渡せるコーナー遊びを通じて、子供が遊びに集中できる空間を整えています。さらに、子供とのコミュニケーションの時間を増やすことで、愛着形成が進んでいきます。名前を「ちゃん」「くん」ではなく「さん」で呼ぶことで、自然と子供への言葉も丁寧になり、目を見てゆったりと会話することで「自分のことを見てくれている」という安心感が生まれ、子供は自分の欲求を言葉で伝えられるようになっていきます。
新人の夢を尊重する保育園の魅力

園の風土は、新人保育士の成長を支える重要な要素のひとつです。管理職には新人の夢や願望を尊重し、「保育園はその実現の場である」という考え方が根付いています。新人でも意見を出しやすく、やりたいことをすぐに取り入れてもらえる環境が整っており、資格の有無に関わらず、イベント企画や広報活動などで自身の得意分野を活かして活躍しています。
たとえば、留学して北欧の保育に触れたことがある新人職員は、現地で体験して興味深いと感じた「朝ごはんを取り入れた保育」を伝えたことから、園でも取り入れてみることになりました。また、体育学科出身の職員は、大学の授業で学んだ、包帯でできた柔らかな素材のボールを乳児から幼児まで楽しめる玩具として提案し、保育に活用しています。
さらに、職員会議では、新人が子供役、ベテランが保育者役となり、実際に保育現場で起こった困難な場面を再現しながら実践的に学ぶ機会を設けています。
また、折り紙とはさみを使った製作活動では、ベテラン保育士が導入時にすぐ説明し始めるのではなく、「ちょっと見ててね」と声をかけて子供たちの視線を集めてから、はさみを使って作品を作り始めます。しばらくしてから「やりたい?」と声をかけると、子供たちが「やりたい!」と意欲をみせるようになり、そのタイミングで説明を始めるという工夫がありました。これは新人にとって非常に参考になる経験でした。このような研修を通じて、ベテラン保育士の技術や声かけの方法が新人に受け継がれ、質の高い保育を目指す工夫が園全体で共有されていきます。
子供との信頼関係を築くことは、保育の根幹です。戸惑いながら子供との関係性を一歩ずつ築いていく新人保育士の姿にも、保育の魅力を垣間見ることができます。
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