第30回 記事1歳児の食環境づくり
1歳児の食環境づくり
こちらの園では、1歳児から保育を行っているため、入園前の面談では、家庭での食事の様子を丁寧に聞き取り、園で提供する食事についても食材の詳細など丁寧に伝えています。園で提供する食材は事前に家庭で食べてもらうのですが、園では魚や野菜を多く使った献立も多く、家庭ではあまり食べていないことがあります。入園前の時期は、親自身も仕事に復帰する不安を感じており、幅広く食材を使った食事作りを求めることは難しいと考え、一緒に少しずつ進めていきます。まだ食べていない食材については、園の給食献立表を渡して、「この時期までに食べられるようにしたいですね」というように説明しています。
入園直後の子供たちにとって、集団で食事をすることは初めての経験です。落ち着かない状態になり、スープがこぼれることもありますが、その日に提供するメニューがわかるように全てのお皿を子供たちの前に配膳します。初めの頃は食器が落ちたり、食べられないものが多かったり、食具の扱い方もいろいろで大変ですが、それも成長の大切な過程です。そして次第に、自分が食べる食事の全体を見ながら、食べることの見通しがつくようになり、「今日のメニューはこれなんだ」と、メニューや食材に興味を持ち、食事に楽しみを持てるようになっていきます。保育士は一人ひとりの食べる状況に応じて介助していますが、子供はだんだんと他の子供の姿を認識できるようになり、苦手で食べたくなかったものを友達が食べているのを見ることが、「ちょっと食べてみよう」と思うきっかけにもなったりします。保育士はできるだけ、子供たち同士で育つ力を信じて、必要以上に手を出さないように気を付けて、見守るように心がけています。
1歳から本物に触れて食育のタネをまく
1歳児には「本物に触れる」体験を提供することで、食育のタネをまいています。食器は、陶磁器を使用し、「丁寧に扱わないと壊れる」ということを体験的に知る機会としていたり、給食スタッフに手伝ってもらいながら、子供たちがその日に使う野菜の下処理をしたり…と、様々な取り組みをしています。ある日、大根の葉や小松菜を子供たちの前に持ってきてもらいました。触ったり、香りをかいでみたり、つまんでちぎってみたりしていました。興味津々の様子で、いろいろな野菜に触れながら下処理のお手伝いをします。ちぎった野菜は、子供たちが調理室に運びます。1歳児も給食の下処理を手伝ったという達成感を感じて嬉しそうです。給食スタッフから「おいしいスープ作るね」と声をかけられ、得意げな表情になります。出来上がった給食を食べるときの子供たちは、自分が触った野菜を見つけ、格別に食事が楽しくなるようです。この様子を給食スタッフとも共有して幼児期への食育につなげているのです。
こうした経験を積み重ねた幼児クラスのクッキング活動は、カレー作りやピザ作りに発展していきます。年長児は夏に特別保育としてクッキング活動を行います。今年度はカレーを作りました。この日は必要な食材をお店に買い物に行くところから始まります。お店でじゃがいも、たまねぎ、にんじんを自分たちで選んで、お店の人とお金のやり取りをして買うという経験をします。野菜を洗ったり、皮をむいたり、年長児は包丁を使えるようになっているので、切ったりすることもできるようになっています。友達みんなで協力して作ったカレーを食べながら、出来上がるまでの過程のすべてを体験した子供たちには、自分たちでできたという充実感とともに、いつも食事を作ってくれる家族や園の調理スタッフへの感謝の気持ちも芽生えるようです。
このページをシェア