第37回 記事子供の心の動きを共有する
関係性の記録

この園では、「関係性の記録」という、保育者と保護者が互いに記入する子供の成長の記録があります。成長の記録といっても身長や体重などではなく、子供の“心の育ち”を記録しているものです。記録用紙には一番上に「2025年〇期の育ちシート」、その下には「子供の理解の共有」「見えない心の動きを観るための記録」とあります。
保護者が子供の育ちの発見・楽しかったこと・困ったこと・嬉しかったこと・驚き・願いについて印象的だったエピソードを記入し、保育者は園生活で印象に残ったエピソードとその心の動きの考察を記入します。
ここでは、あるシートに書かれていた保育者のエピソードを抜粋してご紹介します。
「くっついて繋がって広がる」

時折吹く風が心地よく感じたある日の園庭で、「踊ろうよ~!」と誘ってくれた、Sくん。
手を引かれ、たどり着いたのは園庭の東屋でした。そこにはすでに他のお友達の姿も。「踊るから見ててね」という言葉に「わかった!」と頷く私。私が来る少し前まで他の保育者と“ラッセラ~”の掛け声に合わせて踊っていたようで、もう一度荒馬の踊りを見せてくれました。どんどん気持ちがたかぶり、体の動きや掛け声が大きくなっていく姿。さらには同じ“馬”から連想されたようで「おうまはみんなパッパカはしる~」と口ずさみます。はじめは東屋を縦横無尽に駆けていましたが、『おんまはみんな』の歌になり、丸く円を描くように走り出すと自然とみんなもついていって大きな輪ができ始めたことに気が付きました。そして何度か繰り返すうちにおもむろに立ち止まり、Sくんが一冊の本を開き、話し始めます。みんなもそばに座り、絵本にじっと目を向けるひととき。だんだんと体が前のめりになっている様子からは、自由に紡がれていく物語にみんながぐっと引き込まれているように見て取れました。よく見ていると時折友達も「ゾウさんはお腹が空いちゃったのかな」と新たな世界を取り入れて、Sくんも「そうだね~!」と受け取っています。色々なアイデアがくっついて繋がってまた広がっていく。そうして次々に変化している世界に、私もいつの間にか引き込まれていました。
そばで見ていると、友達の姿を見て“やってみたい”と感じた時に時折ためらうことがあるSくん。体をグッと寄せて、でも少し見て、“やってみたい”“でもどうしよう…”とたくさん考えているのが体の動きから伝わってくるよう。そんな時には一緒に気持ちを伝えてみることもありますが、そこからは自分で切り開いていくことの方が多いように感じます。このエピソードのように友達の思いを分かち合いながら、目の前にある楽しさや面白さを自由に広げた姿をこれからも隣で、時には後ろからそっと見守っていければと思います。
子供の心の動きを共有する
日々の色々な場面に子供の心の動きや成長が垣間見える瞬間がたくさん存在します。そのかけがえのないエピソードを見つけることができるのも保育者の専門性です。記録にはこれからの育ちに対する思いを保護者と園と共有するために【次期へのチャレンジ】を互いに記入しています。“子供の理解の共有”のために一人ひとりの子供の“心の動き”を保護者と共有し、互いにその成長を喜び合うことも、保育者としての大きなやりがいとなっているのです。
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